ミャンマー国軍に合意履行要求 ASEAN首脳会議声明
【シンガポール=中野貴司】東南アジア諸国連合(ASEAN)は26日、同日オンラインで開いた首脳会議の議長声明を発表した。ミャンマー国軍を念頭に、ASEANとの合意事項を「迅速かつ完全に」履行するよう求めるなど、出席した首脳の強い危機感を反映した内容になった。
議長声明は国軍のクーデターから約9カ月が経過しても暴力がやまないミャンマーの現状に「懸念」を表明。「外国人を含む政治犯の釈放を求める声もあった」と指摘した。民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏らとの面会を求めて国軍と交渉を続ける「ASEAN特使の努力を歓迎する」とも明記した。
ASEANは首脳会議に先立つ15日の緊急外相会議で、ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官の首脳会議への出席を認めず、「非政治的な代表」を招くことを決めた。これに反発した国軍は26日の首脳会議をボイコットした。緊張した雰囲気の中で開かれた首脳会議では出席者から、特使派遣など4月の首脳会議で合意した5項目の実行が遅れていることへの懸念が相次いだ。
議長声明はこうした懸念の表明を受け、会議前の草案から表現が強まった。例えば、草案で5項目へのミャンマーの関与を「歓迎する」としていた箇所は、「ミャンマーが5項目の約束を遂行することを求める」に変わった。
合意の履行を求めるくだりでも「迅速かつ完全に」という表現を追加し、国軍が時間稼ぎを続けないようにくぎを刺した。シンガポールのリー・シェンロン首相は首脳会議で「特使に迅速かつ完全に協力するよう国軍に強く促す」と発言しており、議長声明にこの発言が取り入れられた格好だ。
新たにミャンマー情勢に関する1段落も追加された。「内政不干渉の原則を尊重しつつ、法の支配や良いガバナンス、民主主義の原則、合憲的な政府の順守を再確認する」で始まる。国軍トップを招かなかった理由を説明しようとした部分で、インドネシアのジョコ大統領の発言を下敷きにしている。
同時に、この段落では「我々はミャンマーがASEANの家族の一員のままであると改めて主張し、ミャンマーが多くの複雑な課題に対処するために時間と政治的な空間が必要なことも認識している」と付記した。ASEANとミャンマー国軍の間の溝が深まる中で、対話の余地を残すためにミャンマーの実態に理解を示す表現を加えた。
ミャンマー外務省も26日、首脳会議の欠席は「ASEANに抗議する意図も、会議をボイコットする意図もなかった」と釈明する声明を発表した。ASEAN、ミャンマー政府の声明からは、両者とも関係が修復不能になるのは避けたいとの思いがにじむ。
ミャンマー国軍は2021年2月1日、全土に非常事態を宣言し、国家の全権を掌握したと表明しました。 アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる政権を転覆したクーデターを巡る最新ニュースはこちら。