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[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「伝承碑」。
全国各地に、過去の風水害や地震を伝える伝承碑が立つ。刻まれた教訓を後世につなごうと、国土地理院が地図に記す作業を続けており、その数は7月で1000基に達した。災害が激甚化する近年、先人たちの教えは重みを増している。
新たな地図記号「自然災害伝承碑」
「人々不暇逃避(人々は逃げる暇もなかった)」。広島県坂町の公園に立つ3メートルの石碑には、こんな意味の漢文が刻まれている。その碑文は、114年前の明治40年7月15日、数日間豪雨が続いた旧坂村を土石流が襲い、46人の命が奪われたことを記録する。裏側には犠牲者の名前も彫られている。
当時の人々は、災禍が繰り返されると伝えたかったのだろう。2018年7月の西日本豪雨で坂町はまたも土石流に覆い尽くされ、21人の死者・行方不明者を出した。住民はひっそりと立つ石碑を知ってはいたが、内容は把握していなかったという。
町は今年3月、石碑の近くに、豪雨で流れついた巨石と共に新たな碑を設置。「早めの避難が最も重要」と改めて教訓を記した。土石流被害を調査した海堀正博・広島大防災・減災研究センター長(65)は「過去の記録が継承されていれば、防災意識を高めることができたかもしれない。今後、世代を超えて共有することが大切だ」と語る。
坂町の事例を知った国土地理院は19年3月、教訓をいかしてもらおうと、新たな地図記号「自然災害伝承碑」を制定した。伝承碑を管理する自治体などから申請を受けつけ、地理院のウェブ地図への掲載数は今年7月、1000基に達した。担当者は「地域ごとに起きる災害は違っている。伝承碑は身近な危険を知る助けになる」と説明する。
50年ごとに増築 語り継ぎ7基目
各地の碑を研究する香川大の松尾裕治客員教授(70)によると、伝承碑は全国に2000~3000基あるとみられる。風化しにくい岩に文字が刻まれることが多い。把握している最古は1361年の正平地震を伝える「康暦の碑」(徳島県美波町)だという。
東北地方の沿岸部では、津波の到達点に立つ碑もある。岩手県宮古市・姉吉地区の石碑は明治、昭和三陸津波について触れ、「