真鍋淑郎さんら3人にノーベル物理学賞 温暖化予測モデルを開発
ポール・リンコン、科学編集長、BBCニュースウェブサイト
今年のノーベル物理学賞は、米プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎さん(90)ら3人に贈られることが5日、発表された。地球の気候変動など、複雑な仕組みを理論づけたことが評価された。
受賞するのは、真鍋さんのほか、クラウス・ハッセルマンさん(89、ドイツ)、ジョルジョ・パリーシさん(73、イタリア)。スウェーデン・ストックホルムの王立科学アカデミーが発表した。
真鍋さんとハッセルマンさんの研究は、地球温暖化の影響を予測するコンピューターモデルの開発へとつながった。
受賞者らは、賞金1000万スウェーデンクローナ(約1億2000万円)を分ける。真鍋さんとハッセルマンさんに半分が贈られ、パリーシさんにもう半分が渡されるという。
COP26を前に
気候のような複雑な物理システムについて、長期的な動きを予測するのは極めて難しい。そのため、温室効果ガスの増加が気候にどう影響するかを予測するコンピューターモデルは、地球温暖化を危機としてとらえるのにとても重要だ。
実際、今回の授賞は、11月に英グラスゴーで開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向けて、世界の指導者らが準備を進める中で発表された。そうしたタイミングについて質問されたパリーシさんは、「私たちはかなり急いで行動しなくてはならない。大きな遅れがあってはならない」と述べた。
受賞者らの研究に基づく気候モデルは、COP26で指導者らが決断する際の重要な根拠となる。
物理モデルの開発をリード
真鍋さんは日本生まれで、現在は米ニュージャージー州にあるプリンストン大学の上級気象学者。大気中の二酸化炭素レベルの増加が、地球表面の気温上昇にどうつながるのかを示した。1960年代には、気候に関する物理モデルの開発をリードした。
10年ほど遅れて、ドイツ・ハンブルクにあるマックス・プランク気象学研究所のハッセルマンさんが、天気と気候を結ぶコンピューターモデルを開発した。天気は変わりやすく無秩序なのに、なぜ気候モデルを信頼できるのかという疑問に、ハッセルマンさんの研究は答えを提示した。
イタリア・ローマのサピエンツァ大学の教授を務めるパリーシさんの研究は、表面的には気候変動とほとんど関係がないようにみえる。
その研究は、スピングラスと呼ばれる金属の合金に関するもので、鉄の原子が銅の原子のグリッドに無秩序に交じるものだった。鉄原子はわずかでも、物体の磁気特性を大きく、不可解に変えてしまう。
ノーベル委員会は、スピングラスが地球の天候の複雑な動きの縮図に当たると考えた。原子レベルと地球レベルの複雑なシステムは、無秩序であるといった共通点をもつ可能性があり、その動きは偶然によって決まるようにみえる。
パリーシさんは、固体のそうしたでたらめに思える動きが、隠れたルールの影響を受けていることを発見。それを数理的に表現する方法を編み出した。
ミクロとマクロの研究
米イエール大学の物理学者、ジョン・ウェットローファー教授は、「ノーベル委員会の決定によって、ミリ単位から地球サイズに至る複雑な地球の天候の研究と、ジョルジョ・パリーシの研究に重なる部分があることが示された」と話した。
同教授はまた、パリーシさんの研究について、「縮図の中の複雑なシステムにみられる無秩序や変動を基にした」と説明。一方、真鍋さんの研究については、「個々のプロセスの要素を取り出し、それを組み合わせ、複雑な物理システムの動きを予測した」と述べた。
ハッセルマンさんの研究については、ミクロとマクロの両方の世界を網羅したものだと評価した。
「ノーベル賞は気候の部分と無秩序な部分に分けられたが、実はそれらは関連している」
1901年創設のノーベル物理学賞は、これまで218人が受賞した。うち女性は4人しかいない。ジョン・バーディーンさん(故人、アメリカ)は1956年と1972年の2回受賞した。