ドイツ総選挙、接戦の見通し メルケル首相に続くのは
ポール・カービー、BBCニュース、ベルリン
ドイツで26日、連邦議会選挙(総選挙)の投開票が行われる。16年もドイツの首相を務め、国民の人気も高いアンゲラ・メルケル氏の後継をめぐる争いでもあるこの選挙は、これ以上はないというほどの接戦になっている。
首都ベルリンでは同日、恒例のマラソンが開かれる。ただし、最大のレースは全国展開だ。
与党・中道右派、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のアルミン・ラシェット新党首の選挙終盤の遊説には、メルケル氏も力を貸した。25日にラシェット氏が地元アーヘンで開いた支持者集会でも、メルケル氏が登壇した。
選挙最終盤の世論調査では、大方の予想とは裏腹に、CDUが政権を維持する可能性も出ている。
有権者が選ぶのは、欧州最大の経済大国のかじ取りをする政府だ。18歳以上のドイツ人6000万以上に選挙権がある。
投票は現地時間26日午後6時(日本時間27日午前1時)に締め切られる。
今回の選挙は、引退するメルケル首相が終盤になって選挙運動に乗り出すまでは、中道左派の野党・社会民主党(SPD)が有利と見られていた。
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「誰が政権を握るか、これは本当に大切です」と、投票日を目前にメルケル氏は繰り返し訴えた。
ドイツには安定が必要で、ドイツの若者には未来が必要で、CDUのラシェット党首こそそれが実現できると、メルケル氏は言い続けた。
揺れた世論調査
今回の選挙で不確定な要素はたくさんある。投票日が近付いても有権者の3割以上は、誰に入れるか決めていなかった。ただしすでに記録的な数の郵便投票が投函(とうかん)されている。
ここ数カ月というもの、世論調査の結果はぐらぐらと揺れてきた。中道右派のCDUと姉妹政党のバイエルン・キリスト教社会同盟(CSU)は選挙序盤に優勢だった。後に緑の党が支持率1位になったが、オラフ・ショルツ党首代行が率いるSPDが勢いづいた。
首相の座を争う3人の候補の間で、特に有権者の盛り上がりが顕著なのがショルツ氏だ。メルケル政権の副首相なだけに、CDUのラシェット氏よりも、メルケル政権からの連続性をアピールすることができた。
しかし、たとえショルツ氏が勝ったとしても、連立政権を築くにはおそらく他に2つの政党の協力が必要になる。
ショルツ氏は、「自分にとって最も大事な連立は有権者との連立だ。有権者の支持を得てSPDが強くなればなるほど、私は政権を作りやすくなる」と述べた。
主要テーマは気候変動
今のドイツの有権者にとって、最重要なテーマは気候変動なだけに、緑の党にとって今回の選挙は躍進のチャンスだ。連邦議会選挙で緑の党は過去に1度しか、支持率10%以上を獲得したことがない。
ドイツでは今年の夏、壊滅的な洪水に襲われ、190人が死亡し、人口の多い2つの州で甚大な被害が出た。
それでも緑の党から首相の座を目指すアンナレーナ・ベアボック氏は夏の間に、支持率を落とした。
ベルリンの広大なアレクサンダー広場にいる人たちをランダムに取材したところ、多くの人は確かに最重要課題は気候変動だが、緑の党でなくても適切に対応できるはずだと考えていた。
たとえばCDUのラシェット党首は25日、有権者を前に「ドイツでは対応が遅すぎる」として、再生可能エネルギーへの移行を加速化させるべき時だと訴えた。
野党・自由民主党(FDP)は多くの政策課題で緑の党と立場が異なるが、気候変動についてはFDPも若者の支持を得ている。FDPも緑の党も、連立政権に参加して「キングメーカー」となる可能性は十分にある。
「次の政府は、気候変動に積極的に影響を与えられる、最後の政府になる」。緑の党のベアボック氏は選挙終盤のテレビ討論会で有権者にこう警告した。だからこそ、緑の党が次の政権に参加しなくてはならないという主張だった。
しかし、FDPのクリスチャン・リントナー党首は、緑の党が示す方向にドイツが向かう必要はないと主張。ドイツはテクノロジー分野の世界的リーダーとして、新しい視点を提示し、新しい成長を作りだせるとしている。
「終わるまでは分からない」
たとえ現地時間の26日夜には明確な勝者が出現したとしても、政権の構成が判明するにはかなり時間がかかる。
第1党となっても連立政権を形成する必要があるほか、現在のCDUとSPDの2党による大連立が繰り返される可能性は非常に低い。
ドイツでは、連立政権は政党の色で示される。中道左派のSPD(赤)が勝てば赤黄緑の「信号」連立、保守派のCDU(黒)が勝てば黒黄緑の「ジャマイカ」連立といった具合だ。
連立政権が確立するまでは、メルケル氏は政治の場からは退場しない。