ソニー、AIセンサーで脱炭素 消費電力7000分の1に
監視カメラなど、「エッジ型」で省エネ効果アピール
ソニーグループはデータ伝送量を抑える「人工知能(AI)センサー」を環境対策の要に据える。監視カメラの映像データをクラウドに送らなくてもセンサー内で物体認識など解析ができる。データセンターで処理する従来方式に比べて消費電力を7000分の1以下に抑えられるのが特徴だ。小売りやスマートシティーの分野で新たなサービスの開発を急ぐ。
「今後IoTは社会の生産性向上に不可欠だ。AIセンサーは取得したデータを目的に応じて大幅に削減できる」。15日にオンラインで開かれたESG(環境・社会・企業統治)に関する説明会で、ソニーの吉田憲一郎会長兼社長は強調した。
AIセンサーは独自の半導体加工技術を生かし、2020年に商品化した。光をとらえるセンサー部に加え、AI機能を担うソフトを搭載する。通常のネットワークカメラは、映像データをデータセンターなどに送り、クラウド上で解析する。一方、端末側で処理する技術は「エッジコンピューティング」と呼ぶ。データ処理を速めたり消費電力を抑えたりできる。
同じエッジ型でもAIセンサーを使えばさらに省エネ効果を得られる。カメラ端末内でデータ解析用の装置を使う必要がなくなるためだ。同社によると、センサーの解析結果のみを送る場合、映像そのものをクラウドに送る従来方式に比べて消費電力を7400分の1に減らせたという。
すでにイタリアのローマ市がスマートシティーの一環で同センサーを搭載した監視カメラを活用している。街灯についたカメラが、バス停に並ぶ人や道路に止まっている車の数を記録する。バスの運行を最適化したり、ドライバーに空いたスペースを案内したりする。映像解析はセンサー内で完結する。通行人の顔画像は取得せず、欧州特有の厳しいプライバシー規制にも適合している。
ソニーの画像センサーは、スマートフォンやカメラ向けで世界の半分近いシェアを持つ。一方、産業用途などのセンシング分野は後発だ。ソニーはAIセンサーをテコに26年3月期に売上高比率を現在の4%から30%に高める目標を掲げる。従来のセンサー事業は顧客企業への売り切り型だったが、AIセンサーだと解析ソフトの更新などが必要になるため、継続課金(リカーリング)による収益貢献も期待できる。
ソニーGの神戸司郎専務は「IoTの進展で(データ量が増えて処理しきれなくなる)『データ爆発』が懸念されている。AIセンサーはこの社会課題に、分散化や最適化という形で貢献できる」と述べ、今後の事業拡大に意欲を示した。
ソニーは50年の「カーボンゼロ」をめざし、26年3月期までの5カ年の中期計画では使用電力の15%以上を再生可能エネルギーに切り替えるなどの目標を公表している。