アマチュア宇宙飛行士4人乗せ、打ち上げ成功 スペースXの宇宙船

Crew

画像提供, Inspiration4

画像説明, (左から)クリス・センブロスキー氏、ショーン・プロクター博士、ジャレド・アイザックマン氏、ヘイリー・アルセノー氏

アメリカのケネディ宇宙センターから15日、4人のアマチュア宇宙飛行士が、米宇宙開発企業スペースX(エックス)の宇宙船「クルードラゴン」で宇宙に飛び立った。

インスピレーション4」と命名されたこのチームは、1人の富豪と3人の「一般市民」からなる。今後3日間にわたって地球の周回軌道に乗り、科学実験などを行う予定だ。

宇宙ツーリズム市場は2000年代以降、10年にわたって空白期間があったものの、近年になって盛り返しを見せている。

今年の夏には、英実業家のサー・リチャード・ブランソンや米オンライン通販大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が、相次いで自身の宇宙開発会社の宇宙船で宇宙空間へと飛んだ。

また、今年の10月と来年1月には、民間宇宙飛行船を使った国際宇宙ステーション(ISS)への到達も予定されている。

Crew in capsule

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画像説明, 「ドラゴン」内で発射を待つクルー

インスピレーション4が使用するカプセル型の宇宙船「ドラゴン」は、船内のコンピューターシステムで制御され、地上のスペースXのチームが監視する。

「ドラゴン」は、ISSよりもさらに150キロメートル高い高度575キロメートルを目指し「自由航行」を行う。これは、銀河を観測しているハッブル宇宙望遠鏡と同程度の高度だという。

4人のクルーは、「ドラゴン」内で科学実験を行う予定。同宇宙船には大きなドーム型の窓が取り付けられているため、実験の合間には眼下に地球が見えるという。

A large glass dome will allow the crew to look down on Planet Earth

画像提供, SPACEX

画像説明, (イメージ画像)宇宙船「ドラゴン」の上部にはドーム型の窓が設置されている

インスピレーション4の宇宙飛行は、決済システムの開発で富を得たジャレド・アイザックマン氏(38)が、起業家イーロン・マスク氏率いるスペースXから買い取ったもの。

同乗者の1人、ヘイリー・アルセノー氏(29)は、幼少期に骨のがんを克服。成人してからは、自らが治療を受けた米テネシー州メンフィスにある聖ジュード小児研究病院で働いている。アイザックマン氏は、同病院の研究費用として2億ドル(約220億円)を集めようとしている。

Haley Arceneaux

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画像説明, ヘイリー・アルセノー氏は10歳の頃、がんを克服した

地学者であり、科学コミュニケーションの分野でも活躍するショーン・プロクター博士(51)は、2009年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士に応募したものの、最終選考でチャンスを逃した。今回の計画には、画家としての才能と、起業家としてのスキルを買われて参加が決まった。「ドラゴン」の窓から見える景色を絵画に残す予定だという。

クリス・センブロスキー氏(42)は、米空軍の退役軍人。現在は航空機大手ロッキード・マーティンでエンジニアとして働いている。聖ジュード病院に寄付し、4人目の宇宙飛行士に応募した。

センブロスキ―氏本人は席を逃したものの、当選した友人から代理を務めるよう言われ、宇宙に飛び立つことになった。

スペースXとインスピレーション4は、今回の宇宙飛行を初の「民間人のみによる軌道へのミッション」と銘打っている。ただし、これは「民間人」の定義による。人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロング氏は、その9年前に米海軍を退役していたため、厳密には民間人だった。

Launch

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画像説明, 宇宙船「ドラゴン」が発射ロケット「ファルコン」で宇宙へ飛び立った

有人飛行を含む宇宙での活動は、近年ますます商業化している。インスピレーション4のように、公的な宇宙機関の領域を超えて軌道上に乗ろうというアイデアも、普通のものになってきている。

宇宙開発の分野では2000年代、大富豪と呼ばれる人たちがISSに宿泊した。しかし2009年、ISSとの往復飛行を行っていたロシアの宇宙ロケットの空席がすべてNASAの宇宙飛行士専用とされ、こうした宇宙ツーリズムの時代は終わった。

第2世代ともいえる現在の宇宙ツーリズムでは、多くの宇宙開発企業が参入したことで、より耐性が強まった。また、価格も低くなることで、もっと多くの人々に宇宙旅行のチャンスがやってくるだろう。

スペースXのマスク氏は、人類を「多惑星種」にしたいと語っている。

Elon Musk

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画像説明, スペースXの創業者イーロン・マスク氏は、人類を「多惑星種」にしたいと語っている

アイザックマン氏も、インスピレーション4は今後の宇宙開発の指針となると述べている。特に、2009年にハッブル宇宙望遠鏡のメンテナンス以来、人類が到達していない高度570キロメートル以上にたどり着きたいとしている。

「人類は長年、宇宙ステーションの高度420キロメートルまでは行っているし、そこで得られた科学や研究の成果は信じがたいものだ。しかし、また月にたどり着き、火星やその先へと至るためには、居心地の良い場所から少し外に出て、次の段階へ進むべきだ」

一方で、こうした宇宙飛行が地球の気候に与える影響を懸念する声も出ている。

スペースXが宇宙船の発射に用いるファルコン9ロケットは、温室効果ガスとなる二酸化炭素(CO2)や、同じく温暖化に影響を与えている窒素酸化物(NOx)を生成するケロシン燃料を用いている。ロケット発射による排出ガスは、航空業界が生み出す量よりもはるかに少ないものの、今後増加していくとみられている。