女子個人ロードレース(運動機能障害C1~3)で初出場の杉浦佳子(50=楽天ソシオビジネス)が、先月31日のタイムトライアルに続く金メダルを獲得した。13・2キロのコースを3周するレースで終盤に抜け出し、2位に16秒差をつける1時間12分55秒でゴール。日本自転車史上初となる同一大会2冠の偉業を成し遂げ、自身が持つ最年長金メダル記録を3日更新した。藤井美穂(26=楽天ソシオビジネス)は15位だった。

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杉浦が、全身で喜びを感じた。先月31日のタイムトライアルで獲得した時とは違う。今大会最後の種目を最高の形で締めくくり、もう「次」を考える必要はない。胸には、2個目の金メダルが光った。「これで、本当にホッとしていいんだ。何も考えずに大の字で寝ていいんだ」。戦いに挑んできた目が少し潤んだ。

終盤に勝負を決めた。残り約3キロ付近で、アタックを仕掛けた。4人の先頭集団から抜け出すと、さらに得意の上り坂で突き放した。2位で食らいつく王小梅(中国)も振りきり、最後はVロードを独走。左手を小さく突き上げた。「コーチの指示通り。本当に全部言われた通りにできた」。完璧なレースだった。

タイムトライアルからの3日間は、本格的な練習を避けた。「あえて走らずに『また走りたい』『乗りたい』という気持ちにした」。45歳の時にロードレース中の事故で生死をさまよい、障がいが残った。それでも「本当に乗ることが楽しい」と、目を輝かせる。緻密な作戦だけでなく、自転車への“愛”も原動力になった。

本格的に競技を始めてまだ4年。トラックでは自己ベストをマークし、本命のロードでは日本自転車史上初の一大会2冠も達成した。レース後は「メダルが取れていなかったら『何としてでも絶対に』という気持ちになったと思うけど、これ(2冠)以上のものは自信がない。毎日苦しかったので、それに向き合えるかわからない」と引退を示唆したが、「またやっちゃたりして」とおどけた。3年後のパリ大会については明言を避けたが、最初で最後になるかもしれないパラリンピックを笑顔で終えた。【前田和哉】

◆杉浦佳子(すぎうら・けいこ)1970年(昭45)12月26日、静岡県掛川市生まれ。掛川西-北里大薬学部。卒業後は薬剤師として働きながら趣味でトライアスロンの大会に参加していたが、16年4月のロードレース中に転倒。高次脳機能障がいと右半身にまひが残った。17年にパラサイクリングに転向。主な成績は17年世界選手権タイムトライアル、18年世界選手権ロードレースで優勝。156センチ。