【ヌルスルタン=阿部健吾】「東京オリンピック(五輪)の申し子」が宿命の切符をつかんだ。女子53キロ級で向井真優(22=至学館大)が18日の決勝に進出してメダルを確定させ、日本協会の選考基準を満たして五輪代表に決まった。かつて吉田沙保里さんが君臨した階級の後継者としても晴れ舞台に向かう。50キロ級の入江ゆき(27)は準々決勝で敗退し、五輪出場枠を逃した。男子グレコローマンスタイル60キロ級の文田健一郎(23)は17年大会59キロ級以来2年ぶりに世界一に輝いた。あえて喜びを必死に押さえ込むような向田の姿は、強くなった心をにじませた。手堅く準決勝を勝ち、東京五輪行きを決めても控えめに右拳を上げただけ。「内定したのはうれしいですけど、明日(決勝)が越えないといけないところ。しっかり優勝して東京五輪につなげたい」。その目は18日の決勝を見据えていた。
この日の3試合は6ー1、7ー0、4ー0。隙をみせて失点していた姿はなく「絶対に勝ちたいという気持ちで戦えた」。準決勝は最後、相手に頭を押さえ込まれながら耐え抜いた。勝ってもゆるまない気持ち。そこに精神力があった。 「東京五輪の申し子」は悩み抜く日々を越え、成長した。中学1年で日本オリンピック委員会が運営する寄宿制の選手養成所のエリートアカデミーに入校。12年には東京五輪・パラリンピックの招致会見に登壇した。14年にはユース五輪も制覇。ただ、土壇場での“勝負弱さ”は克服できなかった。 決断したのは「越境」だった。6年間過ごしたアカデミーを離れ、名門の至学館大に進学。女子レスリング界では初のケース。「自分に足りないことを学べる」。同大の谷岡学長からは「操られる人形はやめよう。糸を切りなさい」と諭された。才能ゆえ、コーチの指示は全うできるが、それ故に依存してしまう性質を突かれた。自立、それを肝に銘じ、4年の今は主将も務める。周囲を見渡し考えることで、頼る癖も消えていった。
吉田さんは「1発で取ってこい」と送り出してくれた。達成したが、まだ戦いはある。「吉田さんはすごいですが、53キロでも金メダルを取って、向田もいるというのも見せられるように頑張りたい」。その言葉は強く響いた。
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