世界の前に完敗した。注目の男子100メートル。日本勢3人は全員予選落ちで、準決勝に進めなかった。9秒95の日本記録を持つ山県亮太(29=セイコー)は3組で10秒15(追い風0・1メートル)の4着。上位3着の条件だけでなく、予選通過ラインのタイム10秒12にも届かなかった。多田修平(25=住友電工)は1組で10秒22(追い風0・2メートル)の6着、小池祐貴(26=住友電工)は無風の4組で10秒22の4着だった。日本勢89年ぶりの決勝の目標はあっけなくついえた。

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32年ロサンゼルス五輪以来89年ぶりの決勝-。それを懸けた準決勝を前に、その挑戦は絶たれた。過去最高の期待を背負った中、結果は無情。自国開催の舞台で、世界の壁に跳ね返された。神野しか出場できなかった76年モントリオール五輪以来、45年ぶりに誰も予選を突破できなかった。

予選3組。9秒95の日本新記録を持つ山県は、走り終えると、膝に手をつき、記録が映るスクリーンを見つめた。表情に笑顔はない。映る数字は…。4着。10秒15。3着までなら無条件の準決勝だが、0秒03及ばず。タイムで拾われることもなかった。大舞台こそ強さを発揮してきた男が「満足いく結果ではない。悔しいです。チャンスがあるならもう1度、走りたいが、1回で出し切るのも能力。諦めます」。淡々と振り返った。雰囲気にのまれた。スタートは鋭かったが、中盤以降の伸びがなかった。

日本の進歩以上に、世界の層がさらに厚くなっている現実を突きつけられた。5年前のリオデジャネイロ五輪予選は「10秒20」で突破でき、9秒台をマークした選手はいなかった。それが今回は「10秒12」が突破ラインで、4人が9秒台を出してきた。山県もリオ予選は10秒20で準決勝に行けたが、よりいい記録だった東京は、通過できなかった。

日本選手団の主将も担う。打診を受けた過程では悩んでいた。もともと人前に出るのが苦手な性格。開会式の宣誓という大役を担うことをためらっていた。競技に集中したい気持ちもある中、名誉なことと自らに言い聞かせ、引き受けた。「納得の調整だった。心理的な要因は考えていない」。絶対に言い訳はしないが、レース前に精神的な負担があったことは否めない。

多田、小池も含め、予想外の結果に終わった。初の金メダルを狙う400メートルリレーで逆襲するしかない。「またリレーは100メートルとは違う。レースの反省をし、リレー独自のイメージトレーニングをして準備したい」。この悔しさは一生、忘れられるわけはない。ただ、少しでも取り返すために、リレーこそ悲願を果たす。【上田悠太】