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女子シングルスの準決勝で伊藤美誠(スターツ)は中国選手にストレート負けを喫したが、3位決定戦でユ・モンユ(シンガポール)に4―1で勝利。日本勢の女子シングルスで初のメダルとなる銅を獲得した。
「金」ならず悔しさ99%
石川佳純(全農)、福原愛さんもあと一歩届かなかったシングルスのメダル。準決勝で中国のライバル孫穎莎にストレート負けを喫した伊藤に笑顔はない。日本女子初の銅メダルを獲得しても「金以外は一緒だと思う。悔しさが99(%)」と涙を流したが、胸を張っていい快挙だ。
3位決定戦は第1ゲームこそ落としたものの、伊藤らしさを取り戻し一気に試合を決めた。スマッシュ、ドライブ、鋭いスピンをかけた台上技術――。世界の強豪を苦しめた多彩な技術はこの試合でも健在だった。
強さの背景には、伊藤がバックハンド面に貼っている「表ソフト」と呼ばれるラバーの存在がある。2歳で卓球を始めた時に握ったラケットが憧れの福原愛さんモデルで、バックが「表」だった。打球スピードは出やすいが回転をかけづらく、コントロールが難しいため使うのは少数派だ。
大半の選手が両面に貼る裏ソフトラバーは回転をかけることに優れるが「『表』だからこれができないというのが好きじゃない」と伊藤。バックで「表」の強みを残し、「裏」のような強い回転の打球も操れるから、他の誰もまねできない規格外の攻撃が可能になる。
同じラバーを長く使い続けている。提供する用具メーカー担当者は、3年前の伊藤の言葉が忘れられない。「10年以上使ってやっと扱い方がわかってきました」。国際大会で結果を残し始めたのもこの頃だ。
自分を信じ、数え切れないほどラケットを振って築き上げた変幻自在の攻撃。ぶれずに努力を重ねた末の、価値あるメダルだった。(今井恵太)
「打倒中国」持ち越し
抜群の対応力磨いた出稽古
シングルスで日本のメダル有望選手が次々と姿を消していく中、伊藤が表彰台を射止めた。コロナ禍で無観客となるなど五輪で前例のない空気に包まれ、それでも伊藤は勝ち上がった。抜群の安定感と対応能力は、卓球界で異質の「出稽古」で磨かれたものだった。
大半のトップ選手は、練習拠点で専属のパートナーと打ち合い、力をつけていく。ところが、伊藤は積極的に外へ出る。相手は、男女を問わず実業団、大学生、高校生と幅広い年齢層から選び、必要と感じれば中学生とも手を合わせる。
母の美乃りさん(45)によると、狙いは「何があっても動じない選手になる」。一見して似たタイプの選手でも、ボールの軌道は十人十色。戦術も同じではない。自ら外へ足を運ぶのも、照明の位置や床の滑り具合、空調による風の動き、ボールの弾み具合など多種多様の環境に身を置くことで、試合会場の特徴に左右されない強さを身につけるためだった。
快挙は日本の卓球史に記録された。一方で、伊藤の脳裏には準決勝で「卓球王国」の中国選手に敗れ、金メダルを逃した悔しさが刻みつけられた。当然、大舞台での一球一球は心身の「データベース」に細かく残っている。打倒・中国を果たした上で頂点に立つまで、鍛錬の日々に終わりはない。(今井恵太)