内村航平(32=ジョイカル)の五輪があっけなく幕を閉じた。男子予選、種目別の金メダルを狙い専念した鉄棒で落下。13・866点で上位8人が進む決勝に進めなかった。両肩痛に耐えかね、20年2月に種目別の道を選んだ先の4度目の五輪には、失意が待っていた。引退は宣言せず、今後も体操に向き合う。

   ◇   ◇   ◇

体操の奥深さ。演技後の内村は「失敗したことがない技で失敗する。これだけやってきても、まだ分からないことがある。面白さしかない」と語った。

その思いは鉄棒に種目を絞ったこの1年半でも、度々感じることだった。個人総合で五輪を2連覇しても、新発見があった。特に身に染みたのは、「高校の時にあの人に出会ってないと、もちろん世界選手権も五輪も連覇することなく、たぶんもっと早く引退していたと思う」と話す恩師の教えだ。

高校で教わった小林隆コーチ。「何の役に立つんだ」とふてくされる基礎練習を課され続けた。当時も同門だった佐藤コーチとペアを組んで、毎日は不満だらけだった。「常にふてくされてましたね」と懐かしむ。

恩師が18年に胃がんでこの世を去る前だった。佐藤コーチは1つの映像ファイルを渡された。「必要になると思うから」。中身はきつい練習をいやいやこなす2人の姿と、数々の基本メニュー集。見返すと、ダンベルを使って腹筋背筋などが映っていた。今はスタンダード。「時代の最先端をいっていたな」と2人で驚いた。

いま、映像のメニューは日々の練習メニューになっている。「あれ、結構生きてくるはずなんだよな」と思い返し、実際に試して善しあしを探る。「あのきつい基本の反復練習あったからこそ、いまどんな難しい技やっても力むことなく、無駄な力を使うことなく、効率よくできている」。鉄棒に絞っても一層そう感じる。「お玉のように足を使え」「大きく回せ」。小林コーチが独特の言い回しで教えてくれた車輪の基礎は、いまは2人の口癖となっている。

「体操は面白い」。高校時代の練習が、いまにつながる。そんな予想もしなかった事実も内村を飽きさせない。