元西武投手の野田昇吾氏(28)が、超異例の転身を果たす。今月、日本モーターボート競走会第131期選手養成訓練入所試験に合格。プロボートレーサーを目指し「ボートレーサー養成所」に10月から入所することが決まった。プロ野球選手からの転身は、47年阪急の早瀬猛(ボートでは早瀬薫平)以来74年ぶり2人目と極めて異例。来年9月の修了試験をパスすれば、早くて同11月にプロデビューする。

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昨季限りでプロ野球に別れを告げた野田氏が、第2の人生に急旋回した。昨年11月、西武から戦力外通告を受けた。「野球でクビになったとき肩もずっと良くなかったし、無理して続けられたとしてもそう長くはない。身長も低いし、ボートレーサーに適性があるんじゃないかなと、ふと頭に浮かんで。トライアウト終わってすぐに減量を始めました」。昨年1月に結婚した夫人の理解を得て、次なるステージは水上に求めた。

プロボートレーサーになるには養成所に入所する。その入所試験が狭き門。応募資格は30歳未満、身長175センチ以下、体重57キロ以下。国内トップクラスの実績を持つアスリート経験者が対象の特別枠で、1次試験は免除されたが、適性試験や体力試験が待ち受ける。なにより1500人受験し50人合格という倍率30倍の難所をクリアするため、壮絶な減量生活が始まった。

入所後の朝6時起床の生活に慣れるため、毎日朝4時に起き「私のわくわくスーパー鬼高店」で働き野菜を陳列、販売、包装。午後は毎日10キロ以上走り込み、サウナでは12分×5セットで汗を流した。食事はナッツだけ。何度も倒れそうになりながら、野球時代75キロあった体重は24キロ減量し51キロに絞り込んだ。少しふっくらしていた顔や体の輪郭は完全に変わった。その覚悟が実り、4日間に及ぶ試験に見事合格し、10月から入所する。

屈強で大きな体を駆使して戦うプロ野球において、166センチの小兵投手だった。18年は中継ぎで58登板し1勝1敗1セーブ19ホールドで西武のリーグ優勝に貢献。17年には侍ジャパン稲葉監督の初陣「アジアチャンピオンシップ」のメンバーに追加招集された実力者だった。

畑違いの転身は、野球で培った強みは生かせるのか。「忍耐力とかっていうのは当たり前。切り替えの早さはもしかしたら、強みになるかもしれない。一喜一憂していたらダメというのは中継ぎと一緒かもしれない。でも、野球をやっていた強みが本当に分かるのはこれからだと思います」。戦力外という人生の岐路に立ち、自ら考えマウンドから水上の戦いへ異例の転身。フルスロットルでハンドルを握る。【栗田成芳】

◆野田昇吾(のだ・しょうご)1993年(平5)6月27日生まれ、福岡県出身。鹿児島実のエースとして3年春のセンバツ8強。西濃運輸から15年ドラフト3位で西武入り。17年アジアチャンピオンシップで侍ジャパンに追加招集。20年限りで現役引退。通算成績144登板4勝1敗1セーブ26ホールド、防御率3・09。現役時代は166センチ、71キロ。左投げ左打ち。右利きを矯正した「右利きサウスポー」。家族は夫人。

○…7月1日から9月10日まで132期、来年1月4日から3月11日まで133期の選手募集が行われる。いずれも50人程度を予定。応募資格は、次の全てを満たしていることが条件。

<1>年齢は15歳以上30歳未満。132期は92年4月2日~07年4月1日生まれ、133期は92年10月2日~07年4月1日生まれ。

<2>入所日において中学校を卒業していること。

<3>身長は175センチ以下。

<4>体重は男子49キロ以上57キロ以下。女子44キロ以上52キロ以下。

<5>視力は両眼とも裸眼で0・8以上。コンタクトレンズや、フェイキックIOL(有水晶体眼内レンズ手術)は不可。

<6>強度の色弱でないこと。

<7>聴力など、選手生活に支障のないこと。

<8>禁錮以上の刑に処せられた者、およびモーターボート競走法に違反して罰金以上の刑に処せられた者、選手養成期間中に成績不良、または素行不良により養成を取りやめられた者、反社会的勢力との関係が疑われるなど、モーターボート競走の公正を害する恐れがあると認められるに足りる相当の理由がある者、のいずれにも該当しないこと。

ボートレーサーになるには、一般試験とは別に特別選抜があります。ボートレース場が応募者数に応じて決定する「スポーツ推薦試験制度」です。受験申請書のスポーツ運動歴の記録内容をボートレース場ごとに確認し、該当の有無を判断する。日本代表などのトップクラスの活躍実績を持つアスリートを対象とした特別試験もある。

■主な特別推薦枠の現役ボートレーサー

藤原菜希=世界空手道選手権優勝、全日本空手道選手権優勝

谷川祐一=バイク近畿選手権シリーズ第5戦優勝

井内将太郎=バイク世界トライアル選手権年間ランキング23位

岩橋裕馬=ボクシング日本ミニマム級3位

計盛光=シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)日本代表候補

国分将太郎=水上バイクWorld Finals世界大会ProSkiGP1位