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コロナ禍の厳戒態勢の中、57年ぶり2度目の東京五輪が開かれる。外出するだけでも危険を感じるレベルの酷暑となる東京の夏。熱中症から選手や私たちの健康と安全をどうやって守るのか――。舞台裏では、ハイテクで夏を涼しくするための別の闘いも繰り広げられている。
気化熱「ぬれた感」ない極小ミスト
ひしゃくなどで路面に水をまく「打ち水」。夏の暑さを和らげようと広がった庶民の知恵で、江戸時代には俳句に詠まれ、浮世絵にも描かれた。客人を心地よくお迎えする「おもてなし」のワザでもあった。
涼しく感じるのは、水が気化(蒸発)する際に周囲の熱を奪う気化熱の作用だ。現代版の打ち水といえるのが、ミスト。通常、20~35マイクロ・メートル(マイクロは100万分の1)の水の微粒子を飛ばし、気化熱で気温を下げる。しかし、水の粒が大きいと服や顔がぬれる欠点もあった。
これを解消したパナソニックの最新型ミストが、東京都のJR新橋駅前の広場に設置されている。特殊なノズルを開発し、水の粒を6~10マイクロ・メートルと極小にした。ミストを浴びるとぬれた感じがないのに、なぜかひんやりとする。同社の検証では、体感温度を約7度下げた。
この製品は、五輪のトライアスロン会場になる東京湾岸のお台場にも設置された。同社の尾形雄司さんは「ミストは小電力で、大きな冷却効果がある。未来都市のインフラに適するのではないか」と期待を寄せる。
熱中症死 前回64年の10倍以上
前回の東京五輪が開かれた1964年に比べ、日本の平均気温は約1度、東京は約2度上昇した。東京の上昇幅が大きいのは、アスファルトが地面を覆い、車や建物から大量の熱が排出される「ヒートアイランド化」が進んでいるためだ。熱中症による国内の死者は、昨年まで3年連続で1000人を超え、86人だった64年の10倍以上となっている。
暑さ対策として、スポーツ用品大手デサントは、蓄冷材を内蔵できるグラブを開発した。冷たすぎない「12度」を20分間維持し、手のひらの血管を通じて深部体温を下げられるという。ぬらしたタオルなどを首に巻くことも効果的だ。ただ、日本工業大の三坂育正教授(建築環境工学)は、「とにかく日射に当たらず、体内に熱をためないことが大事」と強調する。
日陰を歩こう
酷暑の東京では、日陰がオアシスだ。企業や研究者でつくる「Green Tokyo研究会」は昨夏、スマートフォンで日陰が多い快適なルートを検索できるウェブサービス「TOKYO OASIS」を提供した。コロナ禍でマスクをしたままでも涼しく外歩きを楽しめる仕組みで、今夏も提供予定だ。
東京の大手町、丸の内、有楽町地区(約120ヘクタール)で、ビルや樹木の高さなどの情報をデータベースに蓄積し、太陽の動きに合わせ1時間ごとに日陰になるエリアを計算する。現在地から緑が多いなど快適に過ごせる「オアシススポット」までのルートを検索すると、日陰を通る割合が高いルートが地図に表示される仕組みだ。
それでも日なたを歩かなければならない時は、東レが開発した遮光素材「サマーシールド」を使った日傘がある。特殊な3層構造で、遮光率100%、紫外線カット率99%以上を達成。一般的な日傘に比べ約4度以上涼しいという。素材はトライアスロンの五輪プレ大会で、観客向けテントの一部に使われた。
暑さは年々厳しくなり、「心頭滅却すれば火もまた涼し」などと涼しげな顔もしていられない。ハイテクをうまく取り入れて乗り越えたい。
国立競技場 風を活用
五輪・パラリンピックのメイン会場となる国立競技場(東京都新宿区)も、暑さ対策が重視されている。設計を担当した大成建設の川野久雄さんは「風を考慮に入れて設計している」と自信を見せる。
スタジアムにはエアコンは付けられない。着目したのが、一帯で夏に強まる南東の風だった。この風を上層スタンドに設置した「風の
川野さんらは、大庇を17区画に分け、区画ごとに適切な木の設置間隔を決めるため、1000回もの模擬計算を行った。換気が促進されることは、新型コロナ対策にも役立つ。
川野さんは、「スタジアムとは時代や社会を反映するもの。近くにある明治神宮の
科学部 松田晋一郎
ハイテク夏対策は卓上小型扇風機止まり。今夏は「日傘男子」デビューも検討中。