国連、グテレス事務総長の続投承認 「突破口を開く」
【ニューヨーク=白岩ひおな】国連総会は18日、年末で任期切れを迎えるグテレス国連事務総長の2期目の再任を全会一致で承認した。2期目の任期は2022年1月~26年12月までの5年間。グテレス氏は演説で「完全な危機に陥るか、全ての人に安全でよりよい未来を実現できるかの岐路にある」とし、気候変動対策やジェンダー平等、人権保護などで「前向きな突破口を開けるよう全力を尽くす」と語った。
新型コロナウイルスの感染拡大によって「各国が共通して抱える脆弱性と、相互につながりを持ち、一丸となって取り組むことの絶対的な必要性が明らかになった」と指摘した。直面するさまざまな課題に対処するため、国家間の信頼醸成の橋渡し役を務める考えを示した。
グテレス氏は1995年から02年までポルトガル首相を務めた経験を持つ。05年6月から15年12月まで国連難民高等弁務官として難民危機への対処にあたった。17年1月から国連事務総長を務めている。8日に再任を推薦する決議が安全保障理事会で採択され、事実上続投が決まっていた。2期10年を務めるのは通例だが、事務総長の人選は拒否権を持つ安保理の常任理事国が決定権を握る。
シンクタンク、国際危機グループ(ICG)のリチャード・ガウエン氏は現在の1期目の評価について「トランプ前政権との関係管理が最大の試練だった」と振り返る。米国第一主義を掲げたトランプ政権は国連人権理事会、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などの国連機関から脱退し、国連を舞台とする国際協調に背を向けた。
だが、グテレス氏はトランプ政権が推し進めようとしていた国連予算の削減については再検討するよう米国を説得し、機関を弱体化させる予算削減を回避した。ガウエン氏は「トランプ氏による国連へのダメージを抑えるのに成功した」と指摘する。
一方、グテレス氏は国連予算への拠出が高い国々への配慮などから、人権や紛争解決の分野で及び腰になっているとの指摘もある。中国の新疆自治区の少数民族ウイグル族の問題やサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏殺害事件などをめぐり、厳しい対応を取らなかった。
紛争解決分野では、シリアの内戦が継続し、リビアの内戦ではグテレス氏が同国訪問中に武装勢力を率いるハフタル司令官が首都トリポリに向け進軍を始めるなど、グテレス氏の外交努力が危機にさらされる場面もあった。
ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)はグテレス氏に人権分野の取り組みを強化するよう呼びかける声明を出した。ケネス・ロス代表は「中国、ロシア、米国やその同盟国による人権侵害への沈黙が、グテレス氏の1期目を象徴した」と批判する。権威主義者を容認するトランプ前米大統領や中国のウイグル少数民族の人権侵害に対してグテレス氏が行動を取らなかったとした。
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