つみたてNISAに課税? 誤解を機に正しい理解を
知っ得・お金のトリセツ(53)
6月6日、SNS(交流サイト)で拡散されたネット掲示板の情報に腰を抜かした人もいるかもしれない――「積立NISA逝く」(原文ママ)。金融庁が設置した研究会「金融所得課税の一体化に関する研究会」の議事要旨にリンクを張り、研究会メンバーの発言「時価評価については、対象者全員に強制的に課すべき。一方、含み益に課税されることで、キャッシュフローがないところに課税が生じる可能性がある」を紹介した上で「【積立NISA逝く】金融庁、なんと『含み益』に課税検討へ」のタイトルをつけて発信された。
SNSで拡散 「つみたてNISAに課税」は誤り
そもそもこれがあの「少額投資非課税制度」(金融商品の利益に対して通常かかる20%強の税金が免除される人気の枠組み)を指しているのであれば、正しい表記は「つみたてNISA」。「逝く」のネット用語も含め、この時点で眉唾感が漂うが慌てて誤解した人も多かったようで、すぐに2000回以上リツイートされ拡散された。
もちろん完全な誤情報だ。せっかくリンクが張られた研究会の資料を読めば一目瞭然。議論の主題はつみたてNISAではなく、オプションなどのデリバティブ取引。長年の課題である金融所得課税の一体化に向け、損益通算できる金融商品の対象に現在は含まれていない預金やデリバティブ取引を加えるに当たっての論点整理で出た議論。「研究会でつみたてNISAについて議論した事実さえなく、なぜ結びつけられて拡散したのか不思議としか言いようがない」(金融庁)という。
2014年に始まり18年には積み立て型が加わったNISAは、定義からして「非課税の器」。その枠を使って投資をする限り、決められた対象、期限、限度額までは課税されないメリットを個人投資家に享受してもらうために作られた制度なので、「課税する」という選択肢はありえない。
高まる関心 廃止決定のジュニアNISAも
……にもかかわらず噂が広がった背景には、最近のNISA全般に対する注目度アップがありそうだ。コロナ禍での巣ごもりも追い風に20~30代を中心に投資に対する関心が高まっており、つみたてNISAの口座数は2020年12月末に約303万口座と1年前に比べ1.6倍に急拡大した。
同時に一部では本来の非課税枠の趣旨とは異なる使われ方も散見される。23年末に廃止が決まっている未成年者向けの「ジュニアNISA」だ。19歳以下の子どもの名義で開設、親や祖父母が年80万円まで拠出して株や投資信託などで最長5年間非課税で運用できる制度。仕組みは上限120万円までの一般NISAに似ており、個別株を含めた幅広い商品での運用が可能だが、子どもが18歳になるまでお金を引き出せない制約がネックとされ利用が伸び悩んだため開始後わずか4年で廃止方針が決まった。
一部では「マネーゲーム」化も
ところが、廃止決定後過去1年の口座数は約10万増と急伸した。かえって「使い勝手」が良くなったのだ。廃止が決まったことで24年以降は、子どもが18歳になっていなくても年齢に関係なく非課税での引き出しが可能になった。
結果、非課税メリット狙いの短期売買も一部で見受けられる。ネット証券のSBI証券が発表しているジュニアNISA枠を使った取引出来高ランキングで直近1週間のトップはオンキヨーホームエンターテイメント。債務超過で株価1桁台の株だ。子どものための資産形成用でないことは言うまでもない。
NISA後に思わぬ課税はあり得る
好ましくない使われ方だが、急に課税されることがあり得ないのは冒頭のつみたてNISAの誤解と同様だ。とはいえ、使い勝手が良くなったジュニアNISAも手続きを間違えれば課税されることがあるから要注意だ。
ジュニアNISAを使えば最長、子どもが成人するまで非課税で運用できる。ただしNISAの非課税期間は5年なので5年経過するごとに新たな枠に移す「ロールオーバー」の手続きが必要になる。24年以降は新規投資はできなくなるが「継続管理勘定」に移して非課税での運用は可能。この手続きを怠ると通常のNISAと同様、一般の課税口座に自動的に移され結果的に思わぬ課税につながることもある。
正しくルールを理解するのはもちろん、「非課税」は本来、望ましい長期投資の馬力をあげる装置でしかない。本末転倒にならないようにしたい。
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
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