どうなる「ワクチン接種加速」 新井紀子さんらとThink!
日経電子版「Think!」は、各界のエキスパートが注目ニュースにひとこと解説を投稿する機能です。6月4~11日のニュースでは、国立情報学研究所教授の新井紀子さんが「国の大規模接種の対象拡大」を考察しました。このほか「米富裕層の納税記録暴露」「エーザイの認知症薬承認」「銀行のビットコイン保有規制」といったテーマの記事に投稿がありました。(投稿の引用部分はエキスパートの原文のままです)
「ワクチン接種加速へ対象拡大」関連ニュースをThink!
【新井紀子さんの投稿】郊外に住む高齢者が都心の大規模接種会場に来ることを忌避することで空きが出ているのに、さらに遠方に住む高齢者に対象を広げることに意味があるのか?
むしろ、自らのリスク(エッセンシャルワーカー、タクシー運転手等)を認識する18才以上への接種を進めることが、実効再生産数を抑え込む上で効果的だろう。アメリカではその方式が奏功している。
ただ日本では、自治体が送付する「接種券」なしに大規模接種会場での接種を受けられない。年齢で一律に接種対象者を区切る「公平性のための公平性」が無駄を生んでいる。
マイナンバーカードやパスポートで接種をし、自治体に接種済み通知情報を共有する程度の知恵を政府には期待したい。
「米富裕層の納税記録暴露」関連ニュースをThink!
非営利の米報道機関プロパブリカは8日、米アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏ら富裕層の納税記録を独自に入手したと発表した。上位25人の合計保有資産価値は2014年~18年に約4010億ドル(約43兆円)増えた一方、連邦所得税の支払額は136億ドルにとどまった。
【野崎浩成さんの投稿】保有株式の評価差額(含み益)が実現されない限りは課税対象とならないこと、「実質的」可処分所得を個人所得ではなく法人で手にすること、等々については何もアメリカに限った話ではないほか、後者については富裕層に限らず中小事業者で行われていることです。
今回興味深いと思った視点は、バフェット氏の「(私の税金を)増え続ける米国の債務をわずかに減らすために使うよりも、慈善活動に資金を提供したほうが、社会の役に立つ」というコメント。
「所得の再分配」を信頼できない政府に委ねるより自分で決めるということは、市場の失敗を政府でなく市場参加者が修正するということで、市場原理主義の正当性を暗に肯定している印象です。
「エーザイの認知症薬承認」関連ニュースをThink!
米食品医薬品局(FDA)は7日、エーザイと米バイオジェンが共同で開発するアルツハイマー型認知症治療薬候補について、承認申請を認めると発表した。
【花村遼さんの投稿】驚きのニュースです。承認とはいえ、市販後に追加の検証試験を求めていますので、仮承認のような形です。昨年末のFDAの専門諮問委員会で大多数の反対を受け、関連学会や専門家からも疑義が相次いでいました。製品は脳内に蓄積するアミロイドβを標的とした抗体ですが、メカニズム仮説自体も賛否があり、年間約600万円の薬剤費負担のため採用する保険者(ペイヤー)も限定的かもしれません。ただ、長い間新薬承認がなく大手製薬が撤退し続けているアルツハイマー病治療において、研究開発投資を促進するという意味では、大きな一歩かもしれません。一方、それで科学が歪められてはなりません。難しい判断をFDAは下したと思います。
「銀行のビットコイン保有規制」関連ニュースをThink!
金融機関の国際ルールを協議するバーゼル銀行監督委員会は10日、銀行によるビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の保有を規制する案を公表した。
【大槻奈那さんの投稿】「リスクウェイト1250%」は、概ね資本控除と同等ということを意味します。無格付企業向け融資でも100%(標準的手法)ですから相当厳しいのは事実。ただ、上場株式のリスクウェイトも現在の100%を250%に引き上げる予定であるなど、市場リスクへの見方が厳しくなる中、暗号資産のボラティリティは株式の数倍ありますからリスクウェイトもそれに応じて数倍でも違和感はないでしょう。
尤も、いまや1万種類以上取引されている暗号資産をすべて同等に扱っていいのか、非上場株式でも450%(予定)なのに、仮にも上場されて活発に取引されているビットコイン等を1250%でよいのか、などの論点はありうると思います。
【投稿まとめ読み】
https://r.nikkei.com/topics/topic_expert_EVP00000
【エキスパート一覧】
https://www.nikkei.com/think-all-experts
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