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宇宙は人々が憧れ、いつか旅することを夢見る空間だ。それが今、陸・海・空に続く新たな「戦争領域」として、姿を変えつつある。映画「スター・ウォーズ」の世界が、遠くない将来、本当に訪れるかもしれない。
空自に「作戦隊」 自衛隊の要員拡大
「UFO対応はしません」「科学特捜隊のような制服を着せるつもりも、ありません」
2020年5月、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」を創設することを発表した記者会見で、河野防衛相(当時)は真顔で語ってみせた。
作戦隊の主な任務は、宇宙空間に無数に散らばる宇宙ゴミや、他国の衛星の動きを追いかける「宇宙状況監視」(SSA)だ。地上のレーダーと、監視用に打ち上げる人工衛星から、こうした「敵」を探知し、日本の人工衛星が衝突することを防ぐ。
レーダーは19年9月に山口県山陽小野田市で着工。23年度の運用開始を見込む。SSA衛星は26年度までの打ち上げが目標。衛星には光学望遠鏡を搭載する計画で、地上からの操作で宇宙空間からも目標の衛星を観察し、その特性を分析する。
まだ装備を持たない作戦隊だが、今年度中には上級部隊の「宇宙作戦群」(仮称)が創設され、自衛隊の宇宙要員は20人から70人規模に拡大される予定だ。宇宙安全保障が専門の福島康仁・防衛研究所主任研究官は「宇宙を巡る日本の防衛は出発点に立ったばかり」と指摘する。
多くの人工衛星 軍事目的も次々
ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」が打ち上げられたのは、1957年だ。以降、世界で7600機以上の衛星が打ち上げられた。現在、地球の軌道上には4400機以上の衛星が周回しており、通信伝達や気象解析、全地球測位システム(GPS)に代表される位置情報の提供など、私たちの暮らしにも直結する社会基盤となっている。
一方で、宇宙には国境がないことを逆手に、軍事目的の人工衛星が次々に投入されている。敵対国の軍事施設や軍部隊の動きを捉える「偵察衛星」や、赤外線センサーでミサイル発射時の高熱を即時に感知する「早期警戒衛星」などだ。防衛省によれば、こうした衛星は20年時点で米国が最多の128機を保有。中国(109機)、ロシア(106機)が猛追する。
近年は、これらの軍用衛星を無力化する「衛星攻撃衛星」(キラー衛星)の開発が活発だ。ロボットアームや網で捕獲したり、高出力マイクロ波や妨害電波を出して地上との通信を途絶えさせるといった能力を備える。「キラー衛星として公になっている機体はない」(防衛省関係者)とされるが、中国は16年に、人工衛星同士を近接させる実験を敢行。ロシアも19年、20年と続けて自国の衛星を米国の衛星に頻繁に接近させ、米側は「異常かつ不穏な挙動だ」と非難している。