<日印抜きの新たな軍事協力の枠組みは、核の傘でも核拡散でもない第3の道をインド太平洋に開く可能性が>その最大の目的は、オーストラリアが原子力潜水艦の艦隊を構築することを、アメリカとイギリスが支援すること。人工知能(AI)や量子コンピューティング、サイバー分野などの軍事利用でも協力を模索していくという。原潜には並外れたステルス性とスピード、耐久性があり、アメリカはイギリス以外にその技術を供与してこなかった。そこにオーストラリアを加えることにしたのは、中国の脅威に断固対処するという、アメリカの強い政治的決意の表れだ。中国との間で緊張が高まっているインドにとって、自らが参加していようがいまいが、中国を抑止する措置は戦略的にプラスとなる。
インドではAUKUSを見て、2007年にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が、インドに民生用原子力技術を提供する協定に合意したのを思い出す人も多い。それは米印関係の転機となり、両国の戦略的利益を調和させ、最終的にはインドがクアッド(日米豪印戦略対話)に参加する助けになった。 AUKUSが、オーストラリアの軍事力を大幅に高めるのは間違いない。もちろん、オーストラリアの原潜がインド太平洋を航行するようになるのは、まだ先だろう(2030年代になる可能性もある)。だがそれは、インドの戦略的パートナーがこの地域の安全保障により活発に関わり、パワーバランスの維持に貢献することを意味する。近年、インドはカシミール地方の係争地で中国と小さな衝突を繰り返してきた。このためインド政府は、中国がもたらす陸からの脅威に対応するのに忙しく、海からの脅威については、(既に一定のレベルはある)海軍力の増強よりも、幅広い同盟の構築に力を入れてきた。インド自身は参加していなくても、AUKUSはこの努力に一致する。フランスはこれまで、積極的にインド太平洋の安全保障に関与し、懐疑的なヨーロッパ諸国の目を極東に向けさせてきた。それだけに、オーストラリアの決断を「裏切り」と受け止めても無理はない。
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