かつて高尾山に自生「絶滅危惧種」復活の夢…94年前の新聞記事きっかけ

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ムラサキの花
ムラサキの花

 万葉集にも登場し、初夏になると白い可憐かれんな花をつけるムラサキ。かつて高尾山(東京都八王子市)に自生していたこの絶滅危惧種を復活させようと、ケーブルカーなどを運営する高尾登山電鉄が苗の栽培を始めた。ケーブルカーの開業100年を迎える6年後にはムラサキの群落を観光客に披露したいと夢は広がっている。

 ムラサキは根が紫色の染料に利用され、奈良時代には栽培が始まっていたとされる。ウイルスに弱く、発芽率も低いことなどから、次第に自生している姿が見られなくなった。明治時代には化学染料の台頭で栽培地も少なくなり、現在は環境省のレッドリストで「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」とされる「絶滅危惧IB類」に指定されている。

 同社がこの植物に注目したのは、1927年2月28日付の読売新聞夕刊がきっかけだった。この年の1月に開業したケーブルカーの搭乗ルポが掲載され、当時、最先端だった乗り物を「山頂までわずか10分間(現在は6分)」、「愉快な高尾登山鉄道」などと紹介していた。同社は今年で設立100周年を迎えるため、船江栄次社長が記念プロジェクトのヒントになるのではと社員に配布した。

移植したムラサキの白い花に顔をほころばせる篠部長(4月27日、高尾山の野草園で)
移植したムラサキの白い花に顔をほころばせる篠部長(4月27日、高尾山の野草園で)

 これを読んだ篠裕之事業部長(58)は、記事の「『江戸紫』の名によってゆかしい追憶を醸す武蔵野の名草『むらさき』が現に生育している」という記述に着目した。篠部長は同社が山上で運営する「野草園」を担当しているが、同園でもムラサキは展示されていなかった。

 ムラサキは豊かな植物相で知られる高尾山の山野草の象徴になる。そう考えた篠部長は、同園での栽培を100周年事業に提案。そして、今年3月に「ムラサキ復活プロジェクト」が始動した。

 植物の専門家に問い合わせたところ、檜原村で自生していた在来種のムラサキが発見され、その復活に取り組む団体「ひのはらムラサキプロジェクト」を紹介された。団体の事務局に問い合わせると、早速、苗5鉢と種を分けてもらえた。

 5鉢のうちの3鉢は、野草園内で日照などの条件が異なる3か所に移植され、2鉢は鉢植えのまま風の影響などを受けにくい場所で育てている。いずれも50センチほどに成長し、小さな白い花を咲かせている。土の上にまいた種も発芽が確認され、試行錯誤を繰り返しながら高尾山に適した栽培方法を確立していくという。

 篠部長は「ムラサキは自然条件の変化にも敏感なようで栽培は難しい」と苦労を語る一方、「少しずつでも増やし、高尾山に自生していたかつての姿を取り戻して、お客さんに楽しんでもらいたい」と意気込んでいる。

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2028204 0 社会 2021/05/03 19:33:00 2021/05/03 19:33:00 2021/05/03 19:33:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210501-OYT1I50142-T.jpg?type=thumbnail

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