匿名の悪意がママ襲う、「感染源」扱いで非難1日数百件…[虚実のはざま]第2部 作られる「真相」<2>

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 国民的人気コメディアンが入院したとのニュースが流れた翌日、SNS空間に火が放たれた。

政治的主張強すぎるとデマ受容リスク増、国際大調査…「エコーチェンバー現象」影響か
志村けんさんの感染を巡るデマの投稿に使われた写真=画像は一部修整しています
志村けんさんの感染を巡るデマの投稿に使われた写真=画像は一部修整しています

 <感染報道直前に来店>

 志村けんさんが新型コロナウイルスの感染判明前に訪れていた店として、東京・銀座のクラブを名指しした文章が昨年3月26日、ツイッターに投稿された。

 そこには、志村さんが誕生日ケーキを前に複数の女性に囲まれている写真が添付されていた。さらに投稿では、大阪・北新地のクラブの名前を挙げ、「感染者で営業停止との うわさ は?」とも記されていた。

 志村さんが亡くなると、SNS上で瞬時にこんな情報が広がる。

 志村さんの誕生日パーティーが銀座のクラブで開かれ、参加した北新地のママが感染させた――。

 これを信じたファンらの怒りは、一気に2人のクラブママに向けられた。

 <人殺し><許さない>

 特に「感染源」と名指しされた北新地のママのもとには、1日数百件もの非難のメッセージが押し寄せた。

 だが、情報はでたらめだった。志村さんとは面識すらなく、写真は過去に別の店で撮影された無関係のものだった。

■特定困難

 最初に偽ニュースを流したのは誰なのか。「投稿を拡散するように依頼された」。東京の主婦は取材に対し、知人の女性が関与した可能性があると証言した。

 この女性は、化粧品をネット販売する実業家。SNSで数万人のフォロワー(登録者)がおり、2人のママとは、過去にSNSでの発言を巡っていさかいがあった。女性は主婦に対し、「(志村さんの投稿は)私のスタッフが書いた」と明かしたという。

 北新地のママは憤りが収まらない。「今もデマを信じている人がおり、流した人間が本当に許せない」。記者が女性側に取材を申し込んだが回答はなかった。投稿はすでに削除され、被害者側が発信元を特定するのは難しいという。

■営業休止

 社会不安が強まると、ネットの「炎上」が起きやすいとされる。

 「あの店で感染者が出た」

 福井市ですし店を営む塚田哲也さん(38)も、コロナ禍で相次いだデマに巻き込まれた一人だ。

 「 LINEライン で画像が出回っているよ」。昨年4月、客からの電話に耳を疑った。拡散していたのは、県内の感染者の年代や、会食した居酒屋などが記された相関図だった。そこに塚田さんの店の名が書かれ、家族が感染したことになっていたのだ。

 事実無根だったが、店には連日、「なぜ営業するのか」などと非難の電話が殺到した。予約の大半がキャンセルとなり、営業を休止するしかなかった。

 相関図に記された居酒屋などは、自主的に店名を公表しており、内容は事実だった。誰が塚田さんの店を、どんな意図で書き加えたのか。「私たちを陥れようとしたのだろう」。塚田さんは今も不気味さを感じている。

 怒りをあおる情報が、瞬時に拡散するSNS空間。スマホ画面の向こう側に、人々の感情を操ろうとする匿名の悪意が潜む。

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1961508 0 社会 2021/04/05 05:00:00 2023/05/18 11:19:29 2023/05/18 11:19:29 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210423-OYT1I50110-T.jpg?type=thumbnail

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