完了しました
障害の有無にかかわらず、サーカス技術の習得を通じて協調性や問題解決能力などを育む「ソーシャルサーカス」が注目されている。国内でも2年前に初の団体が誕生。共生社会の実現を目指し、初公演に向けた稽古のほか、一般向けの体験講座も開催している。(小泉朋子)
東京・豊洲の運動施設で17日、ソーシャルサーカス団体「スローサーカスプロジェクト」の練習が行われた。
出演者の肩の上に立っていたのは、ダウン症の小川香織さん(26)。「オッケー」の合図とともに、つかんでいたポールから手を離すと、後ろ向きにジャンプ。下ではメンバー数人が見事にキャッチした。「イニシエーション」と呼ばれる難易度の高い技だ。
小川さんは高い所が大の苦手だったが、プロジェクトに参加してからは、公園の遊具に上って自主的に練習するまでになった。小川さんは「みんなでサーカスをするのはすごく楽しい」と声を弾ませ、母親の浩子さん(59)は「娘に向上心が芽生えたのがうれしい」と話した。
ソーシャルサーカスは、貧困や障害など社会的(ソーシャル)な問題を解決するための取り組みで、パントマイムやダンスなどの習得を通して協調性やコミュニケーション力などを総合的に養う。30年ほど前に欧州で始まり、世界的パフォーマンス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」が開発したプログラムは、貧困や虐待といった問題を抱える若者の支援などに活用されている。
日本のスローサーカスプロジェクトは、右脚に障害を持つクリエイティブプロデューサーの栗栖良依さん(43)とサーカスアーティストの金井ケイスケさん(48)が中心となって2019年に誕生した。メンバーは約40人で、半数は脳性まひや知的、聴覚など様々な障害のある人たちだ。
特徴の一つは、障害者が安心して演技できるよう手厚い支援体制を整えていること。舞台上で障害を持つ人たちの演技を補助する「アカンパニスト(伴奏者)」や、体調管理にあたる看護師の資格を持った「アクセスコーディネーター」らがいる。金井さんは「サーカスの大技に挑戦するには信頼関係が必要で、人と協力することの大切さを学べる」と話す。
25、26日には、東京都内で初公演を開催する。森に迷い込んだサーカス団がいろいろな特性を持った虫たちと交流することで共生社会の大切さに気づく物語で、障害者と健常者が一緒にサーカスの大技やコミカルなダンスなどを披露する。