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2度目の緊急事態宣言が発令されている。私たちが一刻も早く、コロナを乗り越えるには――。そのためにいま「#伝えたい」ことを、感染の経験や独自の視点を持つ著名人に聞いた。
火加減をうまく調節しないと
この1年、新型コロナウイルスについて、どう伝えればいいのか常に悩んでいます。「正しく恐れて」と呼びかけていますが、その加減が難しい。
感染を恐れて家から一歩も出ない人に「このくらいは大丈夫ですよ」と言うと、「それなら何やってもいい」と思う人が現れる。そういう人に強い危機感を示すと、慎重な人がさらに縮こまる。結局、どっちが正しいの?と。
私の役割は「かまどのメシ炊き」だと思っています。かまどでご飯を炊く時、最初は火をあおるんだけど、ずっとそうしていたら全部焦げてしまうので火加減をうまく調節しなくちゃいけないんですが、これが難しい。
コロナも同じで、誰も気付いていない時は、気付いてもらうためにリスクを含めて様子を大いに言わなくてはいけない。しかし、燃え上がりすぎて不安までも強く広がってはいけないので、次は抑え気味にしなくてはいけない。
脱毛、頭痛…若者でも「後遺症」の恐れ
若い人が高齢者に比べて重症化や死亡のリスクが低いのは事実。しかし、決して安心はできない。まれに重症化する人もいるし、回復後に脱毛、頭痛などの「後遺症」に悩まされるケースもあります。
ただ、後遺症のメッセージの出し方も難しい。すべてがウイルスが原因というわけではないでしょう。「本当に治るのか」など一種の不安状態になった時に起こりやすい症状が多く、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような形で長期化すると、元に戻りにくくなってしまう。
「後遺症」と騒ぎすぎると「私ももしかしたら」という不安感が生まれ、その不安感が次第に強くなり、症状も強まる。症状があれば一人で悩まず、専門医に早めに相談してほしい。
若者の感染者減少…「我慢してくれている」
私も委員を務める政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、これまで皆さんに自粛や我慢を求めてきました。今も若い人たちに対し、部活、サークル活動、謝恩会、卒業旅行などを控えるよう提言しています。
私自身も中学から大学までサッカー部に所属し、ゴールキーパーとして仲間とボールを追いかけました。高校の卒業式の後は、友人宅に集まり、大騒ぎをして別れを惜しみました。自身を振り返っても、皆さんにとって長引く自粛、我慢はつらいでしょう。人は何かを楽しむために生きているんですから、それをいつまでも抑え込もうというのが長続きしないのはわかります。
我慢の限界がありますから、あまり若い人たちにきつい思いをさせるのはまずい。決めごとを作っても守る人がいなくなっては意味がない。
年明けから、若い方の感染者は減っています。我慢してくれているのだと思います。
ただ、感染症がやっかいなのは、必ず弱者に襲いかかることです。特に高齢で基礎疾患があるような方はすぐに症状が悪くなってしまう。高齢者施設などでクラスター(感染集団)が多発しています。自身や家族ら身近な人が高齢者の介助を仕事にしている場合などは、ウイルスを持ち込まないようにする注意が必要です。
ワクチン接種開始後も「注意は続けて」
コロナを根絶やしにできればいいけれど、おそらく今後も一定の数は出てくる。ワクチン接種が進めば、マスクを外したいという人もいるかもしれないが、注意は続けてほしい。ただ、食事中もマスクを着けてとか、県境をまたいだ移動の自粛を、というようなことは早くやめたい。そのためにも感染を広げないこと、そして受け皿となる医療体制の構築が重要です。(聞き手・矢野誠)
<略歴> おかべ・のぶひこ 東京都出身。慈恵医大卒。国立感染症研究所感染症情報センター長などを経て、川崎市健康安全研究所長。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の委員を務める。