バターがのびなくなった? カナダの「バターゲート」騒動

Stock photo of butter being spread on bread

画像提供, Getty Images

カナダのバターに異変が起きている―――と、地元の食通たちが数週間前から指摘している。バターがのびにくくなっているとの訴えをめぐる騒動は「バターゲート」と呼ばれている。

多くのカナダ人がバターについて、室温でやわらかくならないと不満をあらわにしており、その声はオンラインで広がっている。

食の専門家らからは、牛のえさに含まれているパーム油のせいではないかとの見方が出ている。

これに対し乳製品業界は、バターゲートの主張には根拠がないと反論。それでも調査グループを立ち上げ、対応に乗り出した。

ツイートをきっかけに

バターゲートは、カナダ人料理本作家のジュリー・ヴァン・ローゼンダールさんによるツイートがきっかけで始まった。

「バターが何か変。真相を突き止めてみせる。もう室温ではやわらかくならないって気づいてた? 湿っぽい? ゴムみたい?」

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すぐに何百人もの家庭料理人たちが、バターについて同じような不満を書き込んだ。

ヴァン・ローゼンダールさんはさらに、カナダ紙グローブ・アンド・メールのコラムでも先週、この問題を提起。新型コロナウイルスの大流行でバターの需要が高まったことから、酪農家が生産性を高めようとして、牛のえさを変えたと示唆した。

パンデミックが長引き、バターの需要が高まっているのはそのとおりだ。

酪農が全10州で主要産業となっているカナダでは、業界が需要予測を基に、生産量の割り当てを決めている。カナダ酪農家協会によると、新型ウイルスの影響で多くの時間を家で過ごす国民が増えたことを受け、昨年のバターの需要は前年比12%増加したという。

牛乳増産のため

ただ、牛のえさにパーム油をベースとしたサプリメントを加えるのは、数十年前から行われている慣行だ。乳の出を良くし、乳脂肪分もアップさせるといわれている。

昨年の夏以降、カナダの酪農家は生産性を高めようと、パーム油の使用を増やしている。

Cows in Canada, like these, are being put on a diet of less palm fat

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画像説明, カナダの乳牛のえさににはパーム油が混ぜられている

そうした中、カナダの乳製品製造加工業者協会は、農業情報発信サイトのリアルアグリカルチャーに対し、バターをめぐっては製造方法にも全国的な成分規制にも変更はないと話した。

パーム油が乳製品に及ぼす影響については、研究がほとんどない。だが専門家らは、パーム油を与えられた牛の乳からできるバターは融点が高く、室温ではのばしにくくなる可能性があると指摘する。

カナダ・ダルハウジー大学農業食品分析研究所のシルヴァン・シャルルボワ・シニアディレクターは先週、多くのメディアで取り上げられた意見記事で、同国の大部分のバターが確かに硬くなっていると主張。「バターゲートは業界に必要ものではないし、カナダ国民が直面すべき問題でもない」と訴えた。

そして、パーム油について、乳牛のえさに含めることは法的に認められているものの、人間にとっては心臓病のリスクを高めかねないものだとする研究があると指摘した。

業界団体が対応

シャルルボワ氏はさらに、パーム油の製造は環境にもよくないと主張。酪農業界は国民の税金がもととなっている政府助成に大きく頼っており、そうした業界がパーム油を使うのは「倫理的に疑問のある」行為だとしたうえで、こう続けた。

「カナダ国民とのモラル上の約束を永遠に損なってしまう前に、酪農業界が自浄作用を発揮すると期待しよう」

こうした声に対し、カナダ酪農家協会は19日に声明を発表。パーム油製品について、「牛を元気にするものであって、えさに使ったことで望ましくない影響が出たとは確認されていない」と反論した。

また、イギリスやアメリカなど他国も、パーム油を使ったサプリメントを使用していると説明した。

それでも同協会は、消費者を含む乳製品のさまざまな利害関係者からなる専門家委員会を設置。懸念に対処すると表明した。

25日には、調査は継続中だとする一方で、消費者の乳製品への信頼を保つため、酪農家に対し「パーム油のサプリメントについて代用品を検討」するよう勧告すると発表した。