主張

案里被告に有罪 議員辞職を強く勧告せよ

「政治家の出処進退は自ら決断を」。聞き飽きたせりふである。

令和元年の参院選広島選挙区をめぐる公選法違反(買収、事前運動)の罪に問われた参院議員、河井案里被告に、東京地裁は「民主主義の根幹である選挙の公正を害した」として懲役1年4月、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。

冒頭の言葉は、案里被告の判決について会見で問われた岡田直樹官房副長官のものだ。菅義偉首相は「政治家は一人一人国民の負託を受けて、国民から疑念を抱かれないよう、襟を正して活動していくことが大事だ」と述べた。自民党の二階俊博幹事長は「党としては常に襟を正し、引き続き緊張感を持って国民の信頼回復に努めていく」とコメントを発表した。

いずれも一般論であり、人ごとのようにしか聞こえない。

案里被告はすでに自民党を離党しているが、それで知らぬ存ぜぬは通らない。問題の参院選で自民党が案里被告の陣営に1億5千万円を投入した破格の扱いや、当時官房長官だった菅首相が複数回応援に入った事実は消えない。

被告の議員辞職に向けて、その影響力を行使すべきである。

罰金刑以上の有罪判決が確定すれば案里被告は当選無効となる。すでに車上運動員の報酬をめぐる公選法違反罪で公設秘書の有罪が確定し、当選無効を求める連座制訴訟が提起されている。こちらで敗訴が確定しても議員資格を失うが、上告すれば確定までの間、議員にとどまり、歳費を受け続けることができる。

判決は、夫で元法相の河井克行被告との共謀も認定し、「現金交付は克行元法相が全体を計画し、取り仕切った」と指摘した。

克行被告の公判は案里被告とは別に審理が続いており判決期日は未定だが、審理を担当するのは同じ裁判長だ。公選法違反罪の構図が大きく変わることはないとみられる。ただ、こちらも判決の確定までは議員資格を失わない。

政治家の出処進退は自身の損得ではなく、国民の役に立てるか否かで判断すべきだ。新型コロナ禍の非常時に、この国会議員夫妻は何か有益な働きを残したのか。国が一丸とならなくてはならない時に、その阻害要因となっているだけではないのか。自らまっとうな決断ができないのであれば、勧告すべきは自民党である。

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