バイデン氏、感染対策に「戦時下」の権限発動へ 10件の大統領令に署名

President Joe Biden

ジョー・バイデン米大統領は21日、新型コロナウイルス対策を強化するため、ワクチンの供給加速などを盛り込んだ10件の大統領令に署名した。

大統領令には、新型ウイルスワクチンの供給加速やウイルス検査の拡大のほか、マスクなどの必需品の生産量を増やすため国防生産法(DPA)を発動することなどが含まれる。DPAは戦時中の軍需物資の増産を目的に制定されたもの。

ドナルド・トランプ前大統領も昨年3月、不足している必需品の生産を命じるためにDPAを発動した。

バイデン氏は新型ウイルスのパンデミックに打ち勝つには数カ月かかるだろうとしつつ、国民が団結すればアメリカは「これを乗り越えられる」と述べた。

<関連記事>

バイデン氏は前日20日に第46代米大統領に就任した。

直後に、新型ウイルス対策の失敗を広く非難されたトランプ前政権の方針を転換。今回の大統領令は、各州に判断を任せず、連邦政府の国家戦略を強調するものとなっている。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、アメリカの新型ウイルスによる累計死者数は40万9667人、感染者数は2461万1923人で、いずれも世界最多となっている。

「戦時下の取り組み」

バイデン氏はこの「大胆で実用的な措置」は安く済むものではないだろうと述べた。

「はっきり申し上げる。物事は改善される前に悪化し続けるだろう」とバイデン氏は述べ、来月までに死者数が50万人に達するとの見込みを示した。

バイデン氏は「これは戦時下の取り組みだ」とし、新型ウイルスのパンデミックで、第2次世界大戦よりも多くの米国民がすでに亡くなっていると繰り返した。

新型ウイルスワクチンの供給については「今のところ悲惨な失敗だ」とした。バイデン氏は20日の就任から100日間でワクチン1億回分の提供を目指すとしており、この取り組みは「この国にとって、これまで最大級の運用上の課題の1つ」だと述べた。

記者から目標設定が低すぎるのではと指摘されると、バイデン氏は「私がこの計画を発表した際、あなた方は全員これは不可能だと言っていた。冗談じゃない」と言い返した。

バイデン氏は透明性の確保や、科学者が政治的干渉を受けずに取り組むための環境整備も約束した。

「米国民はこれ(新型ウイルスの感染収束)を成し遂げるために努力を惜しまないと、私は確信している」

「我々が団結すれば、成し遂げられる」

感染症対策トップは何と

アメリカの感染症対策トップのアンソニー・ファウチ博士はその後、バイデン政権がワクチン供給計画を「拡大」していると述べた。

そして、政府の方針通り今年夏の終わりまでに人口の70~85%がワクチン接種を完了した場合、秋までには「ある程度、日常生活」に戻るだろうとした。

ファウチ氏は、ワクチンに懐疑的な人たちに接種について納得させられるかが主な懸念だと述べた。

また、ワクチン供給の問題が報告される中、バイデン政権がワクチン増産をメーカー側と協議中だと付け加えた。一部の地方当局者からは、提供できるワクチンが不足しているとの声が上がっている。

アメリカではこれまでに約1650万回分のワクチン接種が行われている。

「解放感を覚える」

トランプ前政権でも首席医療顧問を務めたファウチ氏は、科学を重視する新政権の姿勢を歓迎した。

「分かっていることや証拠、科学とは何かを話せるなんて(中略)解放感のようなものを感じる」と、ファウチ氏は現在の思いを表現。トランプ政権下では「実際に何かを言っても何らかの影響をもたらせるとは思えなかった」と述べた。

また、トランプ前政権から一線を画すかたちで、「COVAX」と呼ばれるワクチンの公平な配分計画にアメリカが参加すると表明した。COVAXは貧困国への新型ウイルスワクチンの供給を想定した国際的枠組み。

ファウチ氏は世界保健機関(WHO)とのビデオ会談で、アメリカがWHOへの資金拠出を継続する方針だと強調した。WHOをめぐっては、トランプ前政権が昨年7月にWHO脱退を国連に正式に通告したが、バイデン氏は20日に脱退手続きを停止する大統領令に署名した。

Chart showing US cases and deaths. Updated 18 Jan
画像説明, アメリカの1日の感染者数(上図)と死者数(下図)の推移。パンデミック初期はウイルス検査の実施件数が限られていたため、その時期のデータには大半の感染者は反映されていない。実線は7日平均 出典:COVID追跡プロジェクト
Presentational white space

大統領令は、議会の承認を得ずに法的拘束力のある指示を政府機関に出すものだが、今回の資金の大半は、バイデン氏が14日に発表した1兆9000ドル(約200兆円)規模の追加景気刺激策に含まれる。

バイデン氏はこのパッケージをスムーズに承認させるため、上下両院の協力が必要となる。

同氏は就任から100日以内に大半の学校を安全に再開させ、スタジアムや地域の施設にワクチンセンターを設置することを目指している。

海外からの入国者は、渡航前のウイルス検査での陰性確認が条件とされ、入国後も14日間の自己隔離が必要となる。

連邦政府施設でのマスク着用や社会的距離の確保に加え、空港や電車、バスなどでもマスク着用が義務付けられる。

政府はパンデミック対策支援として、州政府や地方自治体にさらなる資金提供を行うほか、コロナ対策の調整を担うポストの新設も計画している。