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「5G通信で天気予報の精度が30%低下するかもしれない」という気象専門家の懸念

by TheDigitalArtist

次世代の高速通信システムである「5G」は、膨大な量のデータ通信が可能にすると期待されています。そんな5Gの実用化に伴って懸念を表明しているのが天気予報の専門家らであり、「5G通信によって天気予報の精度が30%低下し、1980年代レベルに逆戻りする可能性もある」との声が挙がっています。

5G deal reached that threatens weather forecast accuracy, experts say - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/weather/2019/11/22/global-g-deal-poses-significant-threat-weather-forecast-accuracy-experts-warn/

アメリカでは5Gの帯域として24GHz帯を割り当てており、連邦通信委員会(FCC)は2019年3月にオークションの実施を計画していました。このオークションが実施される前に懸念を表明したのが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)アメリカ航空宇宙局(NASA)などの研究者らです。


NOAAやNASAの気象衛星は、水蒸気を観測するために23.6~24 GHzの周波数で動作する「高性能マイクロサウンダ(AMSU)」というセンサーを搭載しています。研究者らはこのセンサーが水蒸気の観測に用いる周波数と、5Gの帯域として割り当てられた24GHz帯が干渉する危険性を指摘しており、5Gの運用が始まれば気象衛星のデータ収集と送信が大幅に妨害される可能性があると主張しています。しかし、FCCはNOAAやNASAの主張を「技術的根拠がない」として却下し、24GHz帯のオークションは予定通り実施されT-モバイルAT&Tがライセンスを落札しました。

次世代通信規格「5G」が実用化されたら天気予報に影響が出るという指摘 - GIGAZINE

by mohamed Hassan

その後、研究機関や気象研究者が焦点を当てているのが、近接する周波数帯に影響を与える帯域外発射の制限についてです。帯域外発射が小さければ小さいほど、5Gと気象衛星の周波数帯が近接していても、お互いに干渉する危険は低くなります。

2019年10月28日からエジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて5Gの規制や将来について決定する国際会議が開かれ、世界中の国々から3000人を超える関係者が集結。この会議においては5Gの帯域外発射制限についても議論が行われ、気象研究者らはより厳しい制限が設けられることを期待していました。

この会議においてアメリカは帯域外発射を-22dB以下にすることを要求し、欧州の規制当局や世界気象機関はより厳しい-55dB以下の制限を求めたとのこと。今回の会議で得られた合意は「2段階で帯域外発射の制限を厳しくしていく」というもので、2027年9月までは-33dB以下、その後は-39dB以下に帯域外発射を制限することが決定されました。

by FirmBee

今回の合意については、気象学者からも複雑な声が挙がっています。アメリカの気象学者であるJordan Gerth氏は、「アメリカの主張よりも低いしきい値で合意された点は歓迎されるべきですが、気象データへの干渉がないとは確信しきれません」とコメント。また、NOAAの研究者であるNeil Jacobs氏は、自身の研究チームの調査が正しかった場合、天気予報の精度は最大30%低下して1980年代の水準に逆戻りする可能性があると考えています。

ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)も国際会議の結果を批判し、今回の合意は5Gのアプリケーションが気象観測に干渉しないことを保証するには不十分であり、気候変動に対する科学に大きな影響を与えると懸念しています。「科学が社会的圧力に屈する歴史が繰り返されるのは心配であり、落胆しています」とECMWFは述べました。

NOAAは5Gによって気象予測の精度が悪化した場合、ほかの代替的な観測方法に切り替えることも検討中です。たとえば地球の海洋上でのみ水蒸気を観測することで、陸上に設置されている5G機器による干渉を回避できる可能性があります。また、別のオプションでは、5Gによって損失した気象データを回復する人工知能アプローチを開発し、気象予測の精度を保つ方法などが模索されているとのことです。

by WikiImages

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in モバイル,   ネットサービス,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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