【解説】 パンデミックで在宅勤務、より快適に過ごすには?
デイヴィッド・ブラウン、BBCニュース
新型コロナウイルスのパンデミックを受け、何百万人もの人が初めて自宅にオフィスを置く必要に迫られた。中には何カ月にもわたって台所のテーブルを利用したり、ソファの上でラップトップを使っている人もいる。
しかし、新型ウイルスのワクチンがもうすぐ手に入るとなっても、フルタイムでオフィスに戻らない人がたくさんいるだろう。イギリスでは、パンデミックによるメンタルヘルス(心の健康)への影響が懸念されており、すでに明らかになっている兆候は好ましくない。
イギリスでは、うつ症状のレベルが上がっている。また王立英国建築家協会が行った最新の調査では、多くの人が在宅勤務によってストレスが増えたと答えていた。
自宅で仕事をしながらより快適に過ごすにはどうしたらいいだろうか?
日光を入れる
精神科医のTBS・バラムラリ氏は、「人間は性格によってタイプが大きく異なるが、指標となる原則は非常に明確だ。日光と外気、そして自然へのアクセスが、メンタルヘルスには有効だ」と説明する。
日光を浴びると脳がセロトニンというホルモンを分泌する。セロトニンは人を落ち着かせ、集中力を高め、気持ちを明るくして、不安感を抑える作用がある。
英建築事務所アサエル・アーキテクチャーでウェルビーイング(人が健康で幸せな、良好な状態にあること)を担当するベン・チャノン氏も、「日光による恩恵は大きい」と話した。
「日光は、人間の空間に対する感覚や睡眠の調整に非常に大きく影響するので、これが出発点になる。新型ウイルス対策にみんなが疲れ果てている今、これは非常に重要だ」
その上でチャノン氏は、「実はみんなが思っているより、採光は調整しやすい」のが助かると言う。
まずは、できることなら机を窓の近くに置くこと。カーテンを目いっぱい開けて、窓の外側と内側をきれいにすること。窓に汚れが付いていると室内に入ってくる日光の量が大幅に減るからだ。
さらに、鏡を使って日光を部屋中に取り込んだり、壁を白や明るい色に塗ることで光を反射させたりすることも有効だ。もし可能なら2階以上の部屋や、天井の高い部屋を選べば、日光をたくさん取り込める。
騒音をシャットアウトする
脳と音の関係を研究している英ノッティンガム大学のレベッカ・デューイー博士は、脳ではさまざまな部位が常に騒音や音の変化を認識していると話す。
「仕事をしていても、とても気が散ってしまう原因になる」、「小さいざわめき音より、鋭い騒音の方が問題だ」と博士は言う。
脳にはさらに、音の変化を感知する部位もあり、「騒音が止んだことで気が散ってしまうこともある」という。
英ニューカッスル大学のエイドリアン・リーズ教授(神経学)は、「騒音は人間の闘争・逃走反応を刺激する」と説明した。
ストレスの元となる音は脳の扁桃体という部位を刺激し、扁桃体は信号を出す。この信号を視床下部という別の部位が受け取り、血液中にアドレナリンを放出する。これによって血圧が上昇する。
リーズ教授はまた、「その音が自分にとってどういう意味をもつものかも、一部関係する」と指摘した。たとえば自分の子どもの泣き声は、同音量の自動車の騒音と比べて、無視するのがとても難しいはずだ。
耳栓で十分と言う人もいるだろうが、より効果を高めたい場合は、軟らかい素材の家具や分厚いカーペット、重いカーテンなどが音を吸収するため、多くの建築家が勧めている。
それでも騒音が気になるなら、カーペットの下に板を敷く、天井の素材を変える、壁に防音材を貼るなども有効だ。また、日光を遮り過ぎないシャッターを窓に設置するという方法もある。
整理整頓を心がける
複数の研究によると、ストレスホルモンのコルチゾールは、散らかった状態で上昇する。部屋が散らかっていると相反する刺激が脳に送られてしまい、脳が無用な信号を排除しにくくなるからかもしれない。
英サリー大学の環境心理学者、エレノア・ラトクリフ博士は、「部屋が散らかっていると刺激過多になる。それが問題だ」と話した。
基準値内のコルチゾールで、時折上昇が見られるのは全く健康なことだ。しかし恒常的にコルチゾールが高い状態が続くと、不安症やうつ、頭痛、睡眠障害などにつながる。
ラトクリフ教授は、「自分が何をどう必要としているのか、考える必要がある」とアドバイスする。
のんびりする場の自宅が多少は雑然としているのは、特に問題ないかもしれない。しかし、自宅がオフィスになった場合、「何をどう必要とするかの状態が変わったため、気が散る原因を減らす必要がある」
適切に物を減らし、整理整頓し、可能ならば適切な収納を手に入れることが大切だ。
立ち上がる
通勤しなくなったら、バス停や電車の駅まで歩く必要がなくなり、会議その他のために長い廊下を行ったり来たりするのも、なくなったかもしれない。
今では通勤といえば、寝室から小部屋への移動、あるいは寝室から台所のテーブルまでの移動のことだとすると、心身の健康維持に必要な運動が、おそらく足りていない。
運動には、不安やストレスを解消し、心身のエネルギーを高める効果があり、エンドルフィン放出で幸福感も向上させる。この効果は、すでにさまざまな研究で明らかになっている。
ラトクリフ博士は、「運動不足は、体に具体的な影響を及ぼすことがある。もし運動していないなら、1日の時間割を考えて、意識的に運動を始めるべきだ」と話した。
可能ならば、スタンディング・デスクを導入し、正しく使うことも一つの手だ。1日の数時間を立って過ごし、別の数時間は座って過ごす。他にも休憩を取って散歩に行くといった方法がある。
英心理学会フェローのゲイル・キンマン教授は、「通勤は多くの人にとって、体を慣らす区切りの時間でもあった」と言う。
「通勤には、家での生活と仕事を明確に分ける働きがある。家で仕事をすると、この境界があいまいになってしまう」
定期的な運動のために外出すれば、在宅勤務でもこの切り替えができるようになるという。
植物を取り入れる
自然と触れ合うことで精神に良い作用があることが知られている。血圧を下げ、不安やストレス、反芻(はんすう、同じことをぐるぐると考えてしまうこと)といった症状を緩和する一方で、集中力や記憶力を高め、睡眠の質も向上するという。
自宅の仕事スペースに鉢植えを置いたり、自然のものや画像などを設置することで大きな変化が生まれる。
ラトクリフ博士はこれを「注意回復理論」と説明する。
「自然物を見ることで脳が休息する。集中している間にも、『ミクロの休憩』が連続して起こるとも言う。自然物は、過剰な負荷や刺激にはならない方法で人間の注意力に作用する」
「自然は気晴らしやリラックスにもなるので、やはり気分を改善する手助けになる」
人と触れ合う……オンライン以外でも
バラムラリ氏は、在宅勤務に不満のある人は、オフィスの何が恋しいのかを徹底的に考え、それを補うよう努力するべきだと指摘する。
多くの人にとってその第1位は、他人との接触だろう。バラムラリ氏によると、私たちの社会関係のほとんど(恐らく80%か90%)が職場で行われている。
オフィス内、昼食に並ぶ列、エレベーターや階段、そうした場所での同僚との会話は、非常に多くの人にとって重要なものなのだ。
「ロックダウンが始まったとき、こうした触れ合いが突然なくなってしまった」とバラムラリ氏は言う。
「その人の性格にもよるが、他の方法で現実的な社会関係を持つ必要がある人がたくさんいる」
「昼食や夕方には外に出てほしい。友人や家族、近所の人など、あなたがつながっていると感じている人たちと触れ合ってほしい」
ロックダウン中に誰かと会うのは非常に難しいが、バラムラリ氏は、運動や散歩をしながら誰かと会うのが良いと提案する。
「人間は社会的動物なので、Zoomで画面越しに人の顔を見るだけでは不十分なのです」
(イラスト:プリナ・シャー)