デビュー作が芥川賞候補入りの安堂ホセさん、小説は「個人的な体験談ではなく、人生のパターンのひとつ」

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安堂ホセさん(29)の小説「迷彩色の男」(河出書房新社、1760円)が第45回野間文芸新人賞の候補に入っている。デビュー作「ジャクソンひとり」が芥川賞候補入りとなり、注目を集める新人作家の2作目は1

カラフルに乱反射し、幻想的ともいえる光のなか、左手で顔を隠すリアルな男。CDジャケットや、あるいは映画のフライヤーのような本書の表紙デザインは、目をひき、カッコイイ。そこには、ページを開く前からすでに作者の思いが込められている。「マイノリティーを取材した作品は、すごくかわいそうな壮絶系か、反対にゆるふわ系の表紙ばかりなんです。それは表紙だけじゃなくて、内容もそう。だけど、そうではなくて、どちらのトーンに傾くでもなく、実態に近い表現をしたくて、僕は小説を書いているので」本作は芥川賞候補となった前作と同様、ゲイの若い男「私」が主人公だ。男性限定のクルージングスポットで、アフリカ系アメリカ人と日本人の両親から生まれた26歳の男が暴行された姿で発見される。その事件を起点に、コミュニティーに溶け込み生きようとする“迷彩色の男”の存在を描いたクライム・スリラー小説である。

人種やセクシュアル差別、暴力に触れた小説でありながら、疾走感があり、色を中心に描いた世界感はエンタメとして読み進められる。「1作目もそうなのですが、性暴力や差別の被害を扱うにあたって、読めないほどに過酷とか、あるいは読めないほどに退屈なものにはしたくなかった」 「私」が主人公ではあるが、この小説は「私小説」ではない。安堂さんの目的は小説を「個人的な体験談」として読まれることではない。「例えば、『マイノリティーだからいじめられたりしました?』って質問されたりもするんですけど、実際に自分がいじめられたかってあんまり関係ないんです。メディアを見ていると、自分と同じ属性を持った人が、どういう目にあってるかが入ってくる。自分が経験しているパターン以外の人生を想像しながら、人は自分の人生の幅を狭めていきます。小説は、自分が恐れているパターンのひとつを生きてみるような感覚。マイノリティーがあたりまえにぶつかる制度や現象だけを組み合わせて、『じゃあ、こういう人生も当然起こりうる』というパターンを表現したいと思っています」

一方で、小説を書く上で起点となるのが「自分」だという意識がある。「マジョリティーに対してもマイノリティーに対しても“書いてさしあげてる”みたいな意識はあんまりない。私の場合は、小説の中の起点が自分にある」 よって、表現の起点となる「自分」を他人に“解釈”されることを避けている。「自分はどんな性格だと思いますか?」という問いの回答にもそれが表れていた。「性格か、どうなんだろ?...

 

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