人間社会はもう長いこと、腐敗した(男性)政治家がもたらす混乱を上手に整理するのは、清廉潔白な女性の闘士だと、そういうイメージを抱いてきた。アメリカの女性参政権100年を祝っている今年、なぜ女性に投票権を与えるべきかという当時の論調は、少し気味が悪いほど今でもなじみがある。カマラ・ハリスの選択は、女性大統領に対する待望論を反映したものでもある。ただし、アメリカの有権者は大統領選の予備選では(ハリス議員を含めて)女性候補を特に支持しなかったのだが。
ハリス議員その人についても注目すべき点はたくさんあるが、それよりも時代がここまで至った複数の要因をもっと検討する必要がある。彼女が歴史的な副大統領候補になったその文脈を見ることで、バイデンによる選択が象徴的だというだけでなく、内容を伴うものだったことが分かってくる。ハリス議員の生い立ちの物語は、多くの人の共感を呼ぶものであると同時に多様性に満ちている。変わりつつあるアメリカの人口構成を反映しているのだ。多人種化が一層進むアメリカにあって、彼女は民主党の将来を代表する。黒人女性の政治参加を増やそうとする、「Higher Heights for America」や「Black Women's PAC」などといった団体は、黒人女性が長年首尾一貫して忠実に党を支え、党に貢献してきたことを認めるためにも、黒人女性を副大統領候補にするよう、民主党に呼びかけてきた。
「#BlackWomenLead(黒人女性は先頭に立つ)」というハッシュタグの広がりは、有権者や政界エリートの間に占める黒人女性の力を、オンラインであらためて示した。黒人女性を副大統領候補にするよう求める声の盛り上がりは、これまで黒人女性たちがいかに長年にわたり組織的に、黒人女性の権利実現のため活動してきたかを物語っている。全米初の黒人女性大学生の交流団体「アルファ・カッパ・アルファ・ソロリティ」や、アフリカ系アメリカ人コミュニティーの強化を目的とするボランティア組織「The Links, Incorporated」などのメンバーになることで、ハリス議員は黒人に政治的影響力を与えるために構築されてきたアメリカの制度の中に自ら進んで参加してきた。
私は黒人女性の政治参加を研究対象に、近く論文を発表する予定だが、その中でもこうした組織の重要性を指摘している。アメリカ政治で黒人が掲げる明確な政策目標を確立するためにも、黒人有権者の政治参加スキルを向上させるためにも、上述したような黒人組織は重要な役割を果たしてきた。それに加えて、ハリスが当選すれば、彼女を補佐する複数の黒人女性スタッフも一緒にホワイトハウス入りすることになる。(連邦議会では黒人女性スタッフが少なすぎる状態が長く続いているが)有力政治家のスタッフは政策づくりに相当の影響力を持つ。これまで社会の隅に追いやられ、声がかき消され、無視されてきた人たちの声を、ハリスは政策検討の場に持ちこむだろう。
上院議員として、カマラ・ハリスはパンデミックの最中に家賃やローンの不払いで人が家を追い出されないよう、強制退去禁止のために働いた。国民医療保険の実現や黒人妊産婦の健康推進事業のために働いた。幼少時に大人に連れられて不法入国した人たち、いわゆる「ドリーマー」に市民権獲得の道筋を提供するため働き、反トラスト法を武器に大手IT企業の規制強化に取り組んだ。私は、黒人女性と政治におけるジェンダーを研究してきた。黒人女性は立法政策の決定過程に自分の全存在を注ぎ込む。カマラ・ハリスも明らかにその1人だ。
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